デジタル施策に「リアルな手触り感」を与えるSNS×OOHの可能性~前編~

デジタル施策に「リアルな手触り感」を与えるSNS×OOHの可能性~前編~

Date : 2024/11/12

「渋谷のOOHを北海道の人も知れるという状況を作れる」

広告・マーケティング情報を発信し続けるメディア「アドクロ」編集長・加藤誠也さんは、SNS✕OOH(屋外広告)のもつ効果の特異性をこのように語ります。2020年のコロナ禍の後、2021年以降からOOH市場は年々成長を続けています。

それと同時に注目されているのが、OOHとSNSの相乗効果です。日々多くのOOHについて発信し続けている加藤さんへ、施策に期待できる効果や成功のポイントを伺いました。


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SNS✕OOHは地域限定の企画を遠方に届け、企画に手触り感を与える

吉田明希(テテマーチ広報):
SNS✕OOHによるマルチチャネルプロモーションは、どのような効果があると加藤さんは考えていますか?

加藤:
SNS✕OOHの組み合わせが持つ強さとして、まず思いつくのが「渋谷のOOHをSNSを通じて北海道の人も知れるという状況を作れる」ことです

7月13日、街中広告をテーマとした「あしたから街の風景がちょっと変わる #街ナカ広告ナイト」というイベントを開催しました。そこで紹介した渋谷の広告事例を、新潟や仙台から参加してくださった方々もご存知だったんです。

「アドクロ」編集長・加藤誠也

三島悠太(テテマーチ取締役/ビジネスプロデューサー):
もともと、OOHはエリアターゲティングを基本とした施策ですもんね。その反響が全国に広がっているって、改めて考えるとすごいな。

加藤:
そうなんですよ。OOHは特定の商圏をターゲットに掲出されるもので、商圏内の人々に認知されることを目的とした媒体です。

それなのに、渋谷の一角で展開した広告が遠方に住む人々にも届いていて、それに対する感想がシェアされている。この異質さに、SNSの持つ影響力の強さを実感しました。

それと、SNSやWebといった画面上の企画に「手触り感」を与えられる点も、OOHの面白さだと思っています。今年2月に渋谷ハッピーボードで掲出された『#ニュー懐メロ』のOOHがその典型ですよね。広告をタッチすることで音楽が聴けるという体験型コンテンツは、非常にユニークな施策だと感じました。

『#ニュー懐メロ』のOOH
※各楽曲の再生ボタン部分にスマートフォンでタッチすることで、CDショップと音楽プレイヤーをイメージした特設サイトに遷移。特設サイトでは『ニュー懐メロ』の楽曲の視聴や、X(旧:Twitter)やLINEに共有できる機能を実装。 

三島:
僕たちは常々、SNSマーケティングはSNS内のみで完結しないと考えています。スターバックスで朝購入したコーヒーのカップに、店員さんからのメッセージが添えられていて、それを写真に撮ってSNSにアップする。これも立派なSNSマーケティングだと僕は思うんです。

こうしたリアルな体験を、OOHは生み出しやすいと思っています。SNSを通じてOOHが全国に広がるパターンもあれば、SNSをきっかけに広告を見に行くパターンもあるでしょう。そうやって、点と点を線としてつなげるような仕掛けを施せるのがOOHの良さだなと。

僕たちは、SNS時代の消費行動モデルを「PERCARS(パーカーズ)」と呼んでいます。このなかで、OOHは「最適な情報に触れる(Personalized)」「ブランドと出会う(Encount)」というステップで用いられる施策だと位置づけています。

近年、SNSのアルゴリズムの進歩によって、私たちは自分にとって最適な情報に触れやすくなりました。

一方、企業はコンテンツを通じてブランドを知ってもらうためのハードルが高くなり、そのステップも複雑化していると感じます。ユーザーはそれぞれ、デジタル上で自分たちに最適化されたコンテンツを楽しんでいるからです。

OOHは、そうしたユーザーに対して「意図しない出会い」を創出できます

例えば、渋谷に通勤していたり渋谷で遊んだりしている人たちに対して、SNSだけでローカライズされた情報を届けることは困難です。そこにOOH=リアルをかけ合わせることで、よりエリアに最適化された情報を届けられるのです。

SNS時代の消費行動モデル「PERCARS(パーカーズ)」

加藤:
今のお話は、OOHに限らず新聞などリアル全般に通じる気がします。

三島:
そうですね。僕たちもOOHに限らず、学食トレイや電柱を広告として活用して、若年層を中心にアプローチするといった企画も展開しています。いずれの企画も、SNSでリアクションを得るという前提で、どのようなコピーが有効なのかを検証し続けているところです。

加藤:
大きな予算を投じて、インフルエンサーを起用して大々的に広告を打ち出すというのが従来型の「勝ちパターン」だったと思います。テテマーチさんはそれに対して、さまざまなアイディアを駆使して人々の関心を引くという施策を展開しているのですね。

三島:
おっしゃるとおりです。最近では、アカウント運用の1コンテンツとしてOOHを活用しています。

例えば、とある宅配寿司の企業の広告運用支援で、運用費用の一部を利用してとある駅の月額数万円の広告枠を購入します。そこでは、「推しの寿司」という文脈の広告を掲出しているんです。

加藤:
面白い施策ですね。SNSと組み合わせることで、OOHはWeb広告として運用できると思っています。広告の掲載面がリアルなだけで、運用型広告と変わらないのではないかと。

SNS投稿へのブレーキを踏ませないための3つの要素

「アドクロ」編集長・加藤誠也とテテマーチ三島悠太

吉田:
加藤さんは、SNS✕OOHの施策を成功させる要因としてどのようなものがあると思いますか?

加藤:
OOHをSNSに投稿してもらう上で、投稿のブレーキがかかりやすいのは「面白いと思った広告の写真を撮る」「写真をSNSに投稿する」という二つのアクションです。ここでユーザーが止まらないようにするには、大きく3つのポイントが必要だと思います。

①クリエイティブにこだわる

「屋外広告は見てもらえない」という前提に立ったうえで、人々が直感的に理解できるようなクリエイティブを模索して注目してもらうこと。これが最初のスタートラインです。

②地域特性・社会特性を読む

広告を掲出する地域の特性や、今の社会情勢を読むことも大切です。猛暑という特性に関連した企画を考えたり、たとえば渋谷のローカルな特性を生かしたりするなど、地域や社会の特性をどのように活かすかは、OOHに欠かせない観点だと思います。

③撮影ハードルを下げる

意外と盲点になりやすいのが、「撮影ハードルをいかに下げるか」です。写真の撮りやすさは、UGCの創出を大きく左右します。撮影ハードルを下げるポイントとして、まず「1枚の写真で広告の内容がすべて収められること」が挙げられます。

吉田:
広告は大きければ大きいほど目立つと思われがちですが、ただ大きいだけではダメだと。

加藤:
大きい広告は、なんとか1枚に収めようとすると画角が斜めになります。それでは広告の良さを十分に伝えられないため、投稿ハードルが上がってしまうんです。その点、リファラル転職のプラットホームを展開するYOUTRUST社が過去に実施した広告クリエイティブは素晴らしいと思いました

広告にはサービス利用者の投稿内容を掲出されているのですが、1枚1枚のサイズが小さいので非常に撮影しやすい。しかも、投稿を掲載された本人が写真を撮影して、それをSNSに上げるというサイクルができていました。

吉田:
逆に、SNS✕OOHを組み合わせた施策をおこなううえで、注意点はありますか?

加藤:
私は、クリエイティブづくりよりも広告を掲出する「面選び」のほうが重要だと思います。

OOHをSNSで拡散してもらう場合、もっとも意識すべきは広告を見た人がどう感じるかです。これは「③撮影ハードル」にもつながりますが、投稿してもらうという前提でOOHを展開するとき、そもそも投稿しやすい面を選ばないとダメだというのが、私の持論です

私のSNSを見てもらうとわかるのですが、実は渋谷の広告のなかでも、私が投稿できていない枠がいくつかあります。なぜなら、その場所は人通りが多く写真が撮れないからです。

細部のクリエイティブにこだわる一方、「この看板をどんな人が見て、どんな感想をつぶやくか」までシミュレーションできている人は、実は少ない気がします。

三島:
作り手としてとても大切な視点ですね。僕たちの場合、写真を撮ってもらうという前提で広告をクリエイティブを設計しています。そのため、人通りの滞留を防いだり、特殊印刷を使用した広告を使用したりする関係で、逆に掲出できる枠が限定されがちなんですよね。
例えば、広告を右から見た場合と左から見た場合とで、異なるクリエイティブが楽しめるというものです。

この場合、右側通行の通路じゃないと企画自体が成り立たないし、写真が撮れる角度も限定されます。結果、必然的に掲出できる枠が決まってしまうわけです。

加藤:
テテマーチさんのように、クリエイティブと面の両方をこだわることは、OOHではとても大切だと思います。先ほどYOUTRUST社の事例を紹介しましたが、広告の全体像を収めずとも1枚の写真として成立するという設計は、よく考えられていると感じます。

その広告でバズりたいのか、認知を獲得したいのか。目的に合わせてOOHを展開しないと、SNSでの拡散は難しいと思います。

テテマーチ三島悠太

OOHはまだまだ成長の余地を残している

吉田:
OOHの市場はさらに成長を続ける見込みです。加藤さんは、この市場の展望をどのように見ていますか?

加藤:
デジタルサイネージやドローンといった技術の活用など、さまざまな方向性があると思っています。しかし、OOHはもっと身近なところに、まだまだ成長の余地を残している気がするんです

最近の事例だと、Netflixの実写版『幽☆遊☆白書』の広告や、同じく実写版『シティーハンター』の広告などが挙げられます。ビルとビルをまたいで広告が展開されていたり、銃弾で作中おなじみのセリフが書かれていたり。

世界観を表現するためのちょっとしたハック的な手法は、まだまだ発掘できる可能性を秘めていますよね

三島:
改めて「リアルのどんな場所も広告にできるな」と感じました。ビルや電車はもちろん、オフィスやエレベーター、ひいては街全体をジャックして、ブランドの世界観を表現することもできそうです。

アメリカでは、実際にモニュメントを置いた広告も展開されていますよね。

加藤:
そうですね。日本でも、宮下公園にルイ・ヴィトンの巨大なインスタレーションが登場し話題となりました。ルールや法律上のハードルがあるのかもしれませんが、日本でもこうした事例が増えてきたらいいですよね。(参考:【ルイ・ヴィトン】ジャイアント・スピーディが東京 渋谷に登場

他にも謎解き感覚で楽しめる広告など、広告の枠を超えてエンターテインメントとして楽しめるクリエイティブが、今後増えていくでしょう。そうした工夫を実現する要素として、ドローンなどの技術が活用されていくべきだと思っています。

三島:
テクノロジーがひとり歩きすると、クリエイティブの自己満足に陥ってしまいますからね。

加藤:
そうなんです。SNSやオンライン上では、広告はなるべく見たくないしスキップしたいもの。リアルの広告ではそれができない以上、良い体験はブランドイメージを向上させますし、悪い体験は炎上のリスクにつながります。

この前提を忘れずに可能性を追求することが、OOHの進化では大切なことだと思います。

まとめ

SNS✕OOHの組み合わせによってチャネルをまたぐ消費者の反応が得られることが分かりました。この二つだけでなく、届けたいメッセージによってチャネルを選び、掛け合わせて施策を設計することもできそうですね。

次の記事では、リアルとデジタルが組み合わさったOOHの事例とアナログメディアが注目されている理由について紹介します。


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