オーセンティシティなき企業は未来に存在できない。小々馬教授が語るα世代の消費行動
Date : 2025/01/20
2024年5月に出版された『新消費をつくるα世代』は、2010〜24年頃に生まれる「α世代」について考察した国内初の著書として、大きな話題となりました。著者の学校法人産業能率大学 経営学部 小々馬敦教授は、α世代の消費行動がもたらすマーケットの変化を、このように語ります。
「オーセンティシティのない企業は検討の土台にも乗らなくなる時代がくるでしょう」
※オーセンティシティ…信望があること、真正性
国内、米国の広告会社にて戦略プランナーや事業開発に従事し、米国のブランドコンサルティング企業数社の日本法人代表を歴任。そんな小々馬教授は、日本のマーケティングの変化をどう予測しているのでしょうか。
現在進められているX・Y・Z・α世代の価値観と購買行動の調査から見えてきた、α世代の実態とそこから見える未来予想図を、同大学OBでもある弊社取締役の三島悠太が伺いました。
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目次
追跡調査の過程で見えてきたα世代の特性

小々馬:
実は今、α世代についての定性調査を計画していて、2025年の3月頃までにいくつかアウトプットを出せる予定なんです。
三島(テテマーチ取締役/ビジネスプロデューサー):
どのような調査ですか?
小々馬:
2年前に当時小学6年生だった子どもたちにメディアやネットの利用についてインタビューをしました。その頃は親のアカウントを使用してSNSを利用していた子どもたちは現在中学2年生。自分のスマートフォンとSNSのアカウントを持って行動を始めている彼ら、彼女たち(同一人物)を対象として、変化したことがあるのか、上の世代のZ世代と同様にSNSに接しているかなど、その後の変化について追跡調査を実施します。2025年の1〜2月中にご両親も交えてインタビューを実施する予定です。α世代も、成長とともにZ世代と同様な行動特性になっていくのではないかと気にされているマーケターの方が多いですが、α世代のリアルがそこで見えてくるでしょう。
三島:
それは楽しみですね。現時点で、何らかの予測は立っているのですか?
小々馬:
事前に見聞きしている限りでも、Z世代との差異がいくつか見つかっています。
第一に、α世代はZ世代ほどSNSへの投稿や情報収集に時間をかけていない。そうした行為を「面倒」「時間の無駄」だと感じるようです。
三島:
長らく言われて死語のようになっていますが、現役の大学生だけでなくα世代にも「SNS疲れ」が広まっているということでしょうか。私たちY世代はとにかくフォロワーを増やし、交流を広げようとすることを重視していましたが、もっと小さなコミュニティで楽しみたいみたいな。
小々馬:
そうですね。α世代はSNSでのつながりにおいて、リアル世界にある友達付き合いで生じる面倒なことを省ける合理性を求めていると思います。また、Z世代は「親子の仲がいい」という関係性が顕著ですが、α世代はさらに一歩進んで「親子がイーブンな関係に近く話し合っている」ということを学校の先生から教えてもらいました。
三島:
博報堂のリサーチでも、母親と共通の趣味を持つ子の割合が急増しているという結果が出ていましたね。

小々馬:
影響力の点でも、旧来は学校の先生の影響が大きかったですが、現在では、両親の方が学校の先生より大きくなっています。これは「先生が尊敬されていない」というわけではなく、α世代の親世代であるミレニアル世代は、子供の教育に関して学校任せにしないことを指しているのかなと考えています。これは、コロナ禍で自宅でオンライン授業を受ける子供の傍で、親がその様子を見るようになったことで強まったと学校の先生から聞きました。実際、α世代の親は「自分の子どもと並走して成長を見守りたい」という考えを強く持っているようです。
誤解されやすいですが、これは過保護とは異なります。スマホ、タブレットPC、通信ゲーム機と複数のデジタルデバイスを利用する子どもたちは、そこから次々とやりたいことを見つけます。親は子供の興味関心を尊重してそれを支援してあげたいと考えているのです。
三島:
昔ながらの「親の引いたレールを走らせる」とは、全く異なる考え方なのですね。

小々馬:
コミュニケーションに関しても時間の無駄を省いた合理性が心地よく、上の世代が行う挨拶の入口になる雑談(例:天気の話)を煩わしく感じるようです。
学校から帰宅するとオンラインゲームの中で友達と待ち合わせして遊び直すのですが、学校で会う時とは異なり前置きなしにすぐにゲームを始められるので、そちらの方が心地がよいと言っていました。一見ドライですが、そのほうが好きなことにたくさん時間を使えてみんな楽しいということなのだと思います。
三島:
α世代が社会人になる頃には、ビジネスメールの「いつもお世話になっております」「何卒よろしくお願いいたします」がなくなりそうですね(笑)
小々馬:
そうかもしれません。ただ、α世代は親世代の価値観を理解している分、上の世代との心理的な距離はZ世代よりも近いのではないでしょうか。彼らが社会人になった時には「Z世代よりも考え方が近くて接しやすい」と感じるかもしれません。
その背景には学校教育の変容が考えられます。α世代は「脱ゆとり教育」を主張した令和の教育改革以降に育ってきました。上の世代が描き実装している未来社会のビジョン、「VUCAの時代に先端技術を活用し社会課題を解決し、より良い社会を実現するスマート社会構想」に関して小学校でしっかりと教育を受けて、スマート社会を実現する担い手としてデジタル技術のリテラシーや解決策を考える力を養っているからです。だから、α世代の考え方は、親世代が考えている社会のあるべき姿との親和性が高いんですよ。
Z世代は、先端テクノロジーの過渡期に育っているので、「DXやAIに関して不安感を持っていて、それらを使って暮らしをそこまで便利にしなくても」という違和感を感じていることと違いが見えます。

三島:
こう表現するのは正しいかわかりませんが……ませていますね。
小々馬:
インタビューをしていても、返ってくる話しっぷりがとても大人っぽいです。というか、興味をもったことを専門家のように話してくれます。普段からマルチデバイスで多様な情報にアクセスできて、大人と同じ情報を見聞きしているからですね(笑)
もうひとつ面白い話があります。α世代は、「リアル」という言葉を取り巻く認識が我々と少し異なります。α世代にとって、あらゆる物事について知る最初の情報源がインターネットです。そこで得た情報は、彼らにとっては「バーチャル(仮想)」ではなく「トゥルー(真実)」として認識されます。
このトゥルーを、現実の世界=「リアル」でも体験したい・楽しみたいと思うのです。
ある親御さんが、お子さんに「釣りに行きたい」と言われたそうです。どちらも釣りの経験はありません。事情を聞くと、オンラインゲーム上で釣りを体験して、魚の名前や釣りの方法も覚えたそうです。
三島:
非常に面白いですね。オンラインを主体に得た情報から形成されたトゥルーから、リアルの行動に転じていくと。α世代はプロジェクトベースの働き方に向いているのかもしれませんね。
小々馬:
もしもα世代の考え方を理解したいと思うなら、中学生向けの社会科の教科書『中学生の公民』(帝国書院)を読んでみてください。書店やAmazonなどで買えると思います。それを読むと、彼らの学んでいる内容のレベルの高さに驚くでしょう。また、社会課題に敏感で解決したい意向が強いこと、LGBTQや公平平等の考え方は尊重すべきことではなく、当たり前のことという意識である理由が理解できます。
副題が「より良い社会を目指して」なんですよね。例えば教科書には、「世論とメディア;新聞について知ろう」という項目があるのですが、同じ事象(衆議院選挙の結果)について全国紙がそれぞれどのように報じているのか、実際の紙面と合わせて紹介されています。子どもたちは、授業を通じて新聞社によって報道の切り口が異なることを学び、情報を読み取る力を養っているのです。
三島:
大学のメディア論で学ぶような内容を、中学生から教えられているのか。面白いですね、早速読んでみようと思います。
AIに選ばれなければ検討の土台にも乗らない

三島:
α世代は消費行動も大きく変わりそうですね。従来のマーケティング手法は完全に無意味とはいいませんが、アウトプットの方法は大きく手を加える必要がありそうだと感じました。
小々馬:
コミュニケーション戦略の“順番”は変わるでしょうね。
例えば、広告を最初の接点とするブランドコミュニケーション、カスタマージャーニーは、購買フェーズに続く可能性がかなり低くなるでしょう。α世代はZ世代と同様に「広告は良いことしか伝えないから役に立たないよね」と広告に対して嫌悪感を持っていなくても、「広告って商業主義のそういうものだから仕方ないね」と現実的な視点から割り切って捉えるため、時間の無駄なのでできればスルーしたいと感じています。
一方で、大学生から「たまたま購入した商品だけど、調べてみたらとても共感できる思いでつくられていることを知ってから、その企業の広告はちゃんとみようと思っている」という声を聞きます。ブランド、企業への共感、信望が先にあると、広告の受容性が向上する効果が見られます。
さらに、Z世代はインターネット上の情報を信用せず自分が納得できるまで時間をかけて調べる習慣がありますが、α世代はその行動自体を“無駄”と捉えている傾向があるんです。普段から学校や塾での学習アプリやAI家電を使うなかで、自分で調べるよりも、生成AIに語りかけて最適な回答を得られる体験に慣れています。
三島:
ネットサーフィンではなく生成AIでの情報収集が主体なのか……。
小々馬:
一つひとつの情報収集がとても効率的なので、行動や意思決定のスピードが非常に早いといえます。答えがでないとわかると、どんどん別の興味の対象に足早に移っていくのもこの世代の特性です。
三島:
関心事がどんどん変化していくのですね。そうなると、企業が注力しているファンマーケティングやCRMは、すぐに飽きられてしまいませんか?
小々馬:
上位3〜5%のコア顧客層から得る収益を大切にするCRMの考え方は継承すると思います。しかし、多くのファンコミュニティは、コア層の加齢化により離脱が課題となっています。
また、SNSなどで多様な新情報に触れる機会が増えている現在では、商品サービスに対するこだわりが強い層ほどブランドスイッチしやすい状況があります。加えて、自社のコアユーザーの多くは、他社の商品サービスも利用しているユーザーであることが多いです。若い世代ほど、ゆるやかにつながる関係性を心地よく感じているので、登録や所属を前提とする、コミュニティの中にヒエラルキーの圧を感じるようなファンコミュニティは避ける傾向が強まっていくのではないでしょうか。
コアファンのコミュニティを維持しながらも、ユーザー層全体を支えるいわゆる「超ライト層(ユーザーでない人も含めた)」とのブランドの想いや姿勢に対する共感や応援の想いが、ゆるやかにつながることができる場所があり、つながり人が常に流動し続けていくというコミュニティの多層体系を管理することが好ましいと思います。
人口増加を前提とする従来のビジネスは、巨大な規模の市場をセグメントしてターゲットグループを絞り込んでも事業が成り立つ十分な規模がありました。人口が減り続けていくこれからにおいて、この手法は合理的でなくなります。従来の「ターゲット層を切り取るマーケティング」ではなく、一人の想いを起点として共感でつながる10〜100人単位のいわゆる「界隈」がネット上に出現し、今度は「界隈」同士がつながり一定の規模の市場が生まれる。このようなひとの想いをつなげていくソーシャルなマーケティングが主流になっていくかもしれません。
三島:
同心円状にコミュニティが広がっていくようなイメージですね。
小々馬:
α世代の消費行動は、自分の相棒であるAIが、自分に合っていて信用できる商品サービスやブランドであることを判定することが基準になると予想しています。自分の趣味嗜好を熟知したAIを自分のエージェントとして扱い、答え探しをAIに任せるわけです。
AIに「このジャンル、テーマであれば、このコミュニティや企業が行っていることが信頼できますよ」と判定してくれる。そこで得られる情報をもとに、購買行動を決定するという流れになっていく気がします。

三島:
企業やブランドは、まずAIに選ばれなければいけないのか……。
小々馬:
今後、企業にはオーセンティシティ(真正性)が一層求められるでしょう。この話の要点は、オーセンティシティにより商品サービスが比較検討されて選ばれるということよりも、そもそもオーセンティシティがない企業の商品サービスは、AIにより検討リストから外されてしまう点にあります。バズっていることに情動して刹那購買が起こるスマッシュヒットはこれからも起こるでしょうが、定番商品、メジャーブランドを育てるには、その企業、ブランドが、どんなテーマやジャンルにおいて信望できるのか、真正性の社会認識形成が前提になると感じています。
AIは、商品サービスのマーケティングコミュニケーションだけでなく、その企業とブランドが過去から現在まで発信してきたビジョン、ミッション、バリュー、パーパス、そして広告・PRメッセージのあらゆるデータを収集し、その企業・ブランドの真正性・信望性について判定するでしょう。そうなると、これらすべてに一貫性を持たせて信望性を担保することの必要性が高まります。企業の各部署が行うコミュニケーション全体を統括する部署の役割が非常に重要となります。
三島:
検討の土台にすら乗らないというのはゾッとしますね……。
お話を聞いて、大企業はものすごく苦労すると感じました。もしリブランディングしようにも、過去の情報が膨大に蓄積されていますから、なかなかAIからのオーセンティシティを獲得しにくい。
逆に、設立間もないスタートアップはMVV(ミッション・ビジョン・バリュー)に一貫性があるので、ジャイアントキリングのチャンスが広がりそうです。
小々馬:
ありえます。コングロマリットに成長している企業ほど、事業ポートフォリオとマーケティングコミュニケーションの整合性が大切になります。
それと、商品サービスのカテゴリーを軸とした競争戦略も合理的でなくなっていくと思います。
旧来のマーケティングは、いわば「カテゴリー内の競争」でした。店頭の同じ売場に並べられた商品から、自社商品が選ばれるために想起を勝ち取ることが重要だったわけです。一方、Z世代を含む若い世代はカテゴリーではなく、「この商品いいな」という好感をもとに、それが自分に合っているかを調べて購買へと至ります。
三島:
ニーズを満たすことよりも、消費者に思いがけない喜びや発見を提供できるかどうかのほうが大切になるのですね。
小々馬:
その思いがけない体験をきっかけとして、企業のパーパスやブランドメッセージがうまく接続できると、共感・応援意識が高まりリピートにつながります。偶然の出会いからの購入だけでは、スマッシュヒットは狙えるけれど事業の継続には至らないでしょう。
三島:
商品やサービスの利用者はもちろん、非利用者の体験も考慮して好意度を高めるBX(ブランドエクスペリエンス)に取り組む重要性がさらに増しますね。
10年先も会社を残すための広告とブランディングの考え方
小々馬:
その方向性で企業は動いていくと思いますが、日本企業の多くは「パーパス疲れ」を起こしていて企業メッセージの発信に苦労しているようで、なかなか大変でしょうね。
パーパスを根幹に置くマーケティング活動は目前の売上に直結しにくいですが、中長期(3〜5年間)の事業収益で見ると収益(キャッシュフロー)を2〜3割高めることに貢献できます。事業責任者などブランドのファイナンス状況を見られる立場であれば、パーパスブランディング活動に期待する効果を理解できるはずです。
しかし、広告宣伝・営業セクションでは、四半期〜1年間での達成指標(KPI)で捉えざるを得ないので、企業・ブランドのオーセンティシティ(真正性)形成がマーケティングの効果向上のために重要とされても、腑に落ちて理解するのは簡単でないのでしょう。
三島:
短期の計画では効果を実感しにくいですよね。
小々馬:
例えば、広告費やブランディング費用の考え方は、日本企業と外資企業で大きく異なります。
私は日本の広告会社から外資に身を移し外資クライアントを担当する機会が増えました。その際に経験したことを、解りやすい例(数値)にしてお話しします。10億円/年間の費用で実施したブランドの広告キャンペーンが成功して、年間売上が1.3倍に伸びました。日本のクライアントであれば「よくやってくれた!」と褒められるのに、私は米国本社のブランド・ディレクターから2つの点で諭されてしまいました。
まず、「広告しないと売れないブランドをつくっていませんか?」と問われました。
ブランドに投資してくれている投資家は、広告キャンペーンの成功による売上増大を嫌います。自分が投資した事業の価値が高まったのではなく、売上をお金で買っているだけで価値を毀損した行動と捉えるのです。「今年と同じ規模の広告出稿を取り止めても、来年も同じ売上を作れますか?安定した顧客層の基盤をつくり3年後5年後に向けて将来収益を安定させるのが、私たちが期待しているブランディングです。」と言われ、何も言えませんでしたね。
三島:
売上は伸ばせたけれど、オーセンティシティやブランド価値を高める施策になっていない。結果として、ブランディングに貢献していないと判断されたのですね。
小々馬:もうひとつの観点はブランド収益、「キャッシュフロー」です。
仮に10億円/四半期売上に対して2億円の広告キャンペーンを実施して、20億円/四半期の売上が得られたとします。2億円のコスト(インプット)で10億円の売上(アウトプット)がつくれたのですから一見すると大成功です。
しかし、ブランディングの評価はキャッシュフローベースのブランド収益なんです。
例えば、商品の営業利益が10%の場合、売り上げが10億円から20億円に増えると、手元に残るキャッシュは1億円から2億円に、1億円純増したことになります。それに対して、2億円の予算を使っているのだから、1億円のキャッシュ(アウトプット)を得るために2億円の費用(インプット)を費やしたというストーリーになり、ROIはマイナス。結果的にブランドの価値を毀損したしまったという判定になるのです。
高度経済成長期で市場が拡大し続けていた時代(昭和の時代)では、シェアと売上を伸ばせば利益も残るという考え方が合理的でした。しかし現在の企業経営は「手元に残すキャッシュを再投資して成長を維持しないと企業は存続できない」というキャッシュフロー重視の経営に変わってきています。
広告が悪いのではなく、売上を立てるために有効な手段として捉えると同時に、企業とブランドの持続成長性を担保するブランディングに取り組む。このポートフォリオ思考があって、はじめて広告マーケティングが企業価値/事業価値の向上に貢献できます。
実際、定番ブランドがない中で広告を運用しつつ売上を伸ばしてきた日本企業の多くが、苦しい状況に立たされています。
三島:
人口減少が避けられないなか、α世代に選ばれる企業になるためにも、広告に依存せず利益を残せるブランディングの重要性はますます増していきそうですね。
若い世代とともに新しい定番を作ろう
三島:
企業はα世代のマーケティングにどう向き合うべきでしょうか?
小々馬:
まず、若年層に対するマーケティングの考え方を変える必要があると思います。
この5年間くらい、Z世代をターゲットとするマーケティングプロモーションは、確かに多くのスマッシュヒットを生みました。しかし、その恩恵を受けた企業はファッション、コスメ、飲食、エンタメなどの業種で、多くの業界業種には及んでいないと感じています。若い世代を標的に市場と捉えてセグメントすると、その規模は多くの企業にとっては、事業機会としては魅力的ではありません。
そもそも、Z世代は自分たちを「Z世代」と自覚しているわけではないので、「Z世代向け」と商品サービスが提供されてもピンと来ず、自分を世代で括られた上で押し付けてくる商品であると感じてしまいます。そして、成長期にある彼ら、彼女たちが興味を持っているのは同世代のことではなく、自分より少し上の世代のことを知りたいので、「Z世代マーケティング」は普遍的ではありません。
三島:
Z世代マーケティングで思うような成果を得られなかった企業は多いと思います。α世代でも同じ失敗を繰り返さないよう、マーケティング戦略を練り直す必要がありますね。
小々馬:
私たちのゼミには、企業から「Z世代向けの商品を作りたい」といった相談が多くあります。若い世代との接点を持ちたいという戦略的な観点があればご一緒させていただきますが、「Z世代に刺さる商品のアイディアが欲しい。SNSの施策を考えたい」というようなZ世代を狙った事業を考えられている際には、やめたほうがいいと伝えています。その代わり、Z世代やα世代とともに「新しい時代の定番をつくること」をおすすめしています。
若い世代は「好きなものを大切に使い続けたい」意識が高く定番志向です。もちろん、刹那購買をすることもありますが、失敗や後悔につながりやすく慎重です。そして「正しく購買したい」と意識しています。若い世代が考えている「正しいこと」は、全世代を通じて否定することのない「社会にとってより良いこと」です。社会の普遍的な価値観の上に成り立っています。だからこそ、Z・α世代の考え方を反映した商品やブランドは、新しい時代の定番にふさわしいものになるでしょうし、「より良い社会づくり」に貢献したい企業の新しい事業構想にお役に立てると思います。
そして、α世代にフォーカスするのであれば、α世代とその親の家族をユニットと捉えて、世代を超えて価値を実感できるアイディアを創出するアプローチにも期待しています。

三島:
2つの世代によりよい体験を提供する。まさに次世代の定番というべきサービスですね。最後に、α世代の台頭でSNSはどのような役割を担うことになると思いますか?
小々馬:
マーケティングの4Pで言う「Place」のような存在になると思います。ここでのPlaceは、「流通」というよりも言葉通り「場所」という意味で考えてください。
マーケティングでのPlaceはもともとは、Market Place「市場(いちば)」に由来していたと思います。かつてから市場(いちば)は、人々が物品を持ち寄り、幸せに暮らせるように価値を交換する物理的な場所として存在しています。世界規模で経済規模が大きくなると、市場(いちば)は市場(しじょう)と呼び名が変わり、物理的な場所に限らず、お金を中心に経済を回す市場経済が形成されました。
市場経済では企業と消費者が相対し利害相反の関係になりやすくなりました。SNSが生活プラットフォームとして浸透している現在、私たちは、ネットの上に「居心地の良い場所」を探し、そこで、物々交換したり購買活動を盛んに行なっています。そこは、単に自分に必要なもの、欲しいものを消費するのではなく、お互いに助け合ったり高め合ったりできるコミュニティとして発展しています。
SNSは、こうした「みんなが幸せに暮らせるように助け合い、価値を高め合える、居心地が良い場所=Place」として発展していことを期待しています。その結果として、その場所は、市場になり、信望のおけるメディアにもなることでしょう。
三島:
ソーシャルメディアはオープンな場所であるはずが、日本ではむしろクローズドでゆるい感じがしますよね。その要素がさらに強まっていくということでしょうか。
小々馬:
ポイントは、つながるための、自分の属性となるコミュニティではなく「居心地の良い場所」であるといということです。若い世代はコミュニティというと、何らかの登録をして参加する必要があるなど、集団からの圧力を感じます。そうではなく、自分の都合で自由に出入りできて、想いが通じる人たちと安心して楽しめる居心地の良い場所を、α世代は求めているんです。
三島:
次々と興味関心が移ろいゆくα世代ならではの価値観ですね。企業は今後、SNS上でそういう場所を用意できることが大切になると。
小々馬:
居心地のよさや「このテーマ、ジャンルならこの企業(ブランド)だよね」という存在感を確立することが新たなポジショニングの考え方になると考えています。そして、それらの背景にあるオーセンティシティ(信頼できる真正性)を築くことが、マーケティングコミュニケーションの効果を最大化する前提となることでしょう。
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