SNSで築くミツカンのCRM戦略~ミツカンが目指す”箱推し”ファンの育て方とは~

SNSで築くミツカンのCRM戦略~ミツカンが目指す”箱推し”ファンの育て方とは~

Date : 2024/12/17

大手食品メーカーの株式会社Mizkan(ミツカン)は、SNSを活用し消費者との関係性を深めるCRM活動に力を入れています。
それぞれのプラットフォームを活かした施策を通じて、老若男女問わず幅広い消費者への訴求、他企業とのコラボレーションなど、積極的な取り組みを展開。
商品認知度の向上だけでなく、新たな顧客層の開拓や事業へどのように貢献しているのか、田中保憲さん、宮崎楓さん、井上紗希さんに伺いました。


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キーワードは「ミツカンのファンを増やす」

大成:

皆さんの担当している業務内容や事業部としての目指している姿について教えてください。

田中:

私たちの所属しているCRM本部は、ミツカンのファンを増やし、一人ひとりの顧客との関係を深めることをミッションとしています。
人口がどんどん減少しているということは胃袋も減っていくというわけで、調味料が使われなくなってしまう。消費者一人一人との接点を強化し、適切なコミュニケーションを通して丁寧に接することで、ミツカンと消費者との関係を深めていこうと考えたことが背景にあります。
そのなかで、私たちは主にSNSやPR活動を通じてミツカンのファンになりうる方々をファンへと育てていくための施策を展開しています。
合言葉は「ミツカンのファンを増やす」。味ぽんやカンタン酢など各ブランドのファンをミツカン全体のファンへと繋げ、いわゆる”箱推し”の状態を作り出すことを目指しています。

ミツカンとテテマーチの座談会の様子

大成:

たしかにこうして実物を見ると、これもミツカンの商品なんだというものもいくつかありました。いろいろな場面で接点を持つことで、スーパーでなんとなく買っていた商品がミツカンなんだって気づくことにつながりそうですね。

田中:

そうなんです。箱推しになってもらえると、ミツカンマークを探して買い回るみたいなことが起きるといいなと思っていて。ミツカンとしてそういった姿を目指すためにSNSを活用しています。

大成:

すでにファンの方々だけではなく潜在層も大事にしようとなったのはいつ頃からでしょうか?

田中:

2022年から組織が編成し直されて本格的に取り組みが始まりました。

大成:

たしかにスーパーで売られている商品でCRMを行うって当時はまだ紐づいていないかもしれないですね。販売店を持ち、直接消費者と関わるビジネスの方がCRMをしているイメージが沸きます。
今お伺いしたようにミッションとして推進していくのか、そうじゃないのかで異なると思うので、背景がすごく理解できました。

SNSでファンとの絆を深め、事業貢献を加速

田中:

業務内容としては、私がSNSやPR活動全般の業務をマネジメントしており、井上がInstagramを、宮崎がXとTikTokを担当しています。

大成:

私はミツカンのすべてのSNSアカウントをフォローして、日頃から投稿を楽しみにしています。InstagramとTikTokのどちらもレシピのショート動画コンテンツが中心なのでセットだと思っており、担当の方が分かれていると聞いてびっくりしました!
Instagramだとレシピの投稿を考えるのってとても大変なんじゃないかと思うのですが、各媒体の役割や普段どれくらい時間をかけて投稿を作っているのか教えていただけますか?

井上:

Instagramは料理好きの方々を主なターゲットとしています。ターゲットとしている方々が多く利用されているプラットフォームであるため、料理に関連するコンテンツを積極的に発信しています。
見てくださる方々が飽きないために一番意識しているのは、季節のトレンドや旬の食材を取り入れたレシピを紹介することです。「このレシピ好きだな」から入っていってもらえるように投稿の作りを工夫しています。投稿のなかではミツカンの商品を出しすぎず、自然なかたちで取り入れることでまずはレシピに着目してもらい、「これを作るにはミツカンの商品がいるんだね」と商品へ興味を持ってもらえるように制作しています。画像の編集も自分たちで行っているんです。

ミツカンとテテマーチの座談会の様子

大成:

ご自身で編集されているんですね!

井上:

そうですね。撮影だけはカメラマンさんにお願いしています。

大成:

レシピはどのように考えているのですか?

井上:

各商品でどんな料理が作れるかレシピを考案する社内のチームと連携をしています。毎月ミーティングを実施して、投稿する時期に合わせたレシピを新しく開発してもらうこともあれば、すでにあるレシピを採用することもあります。
野菜の価格が高騰しているとか、急に寒くなりそうだとか、そういった生活のトレンドも考慮しながら取り扱うレシピを考えています。

大成:

野菜の価格高騰のことまで考えられているということにすごく感動しました。

田中:

たとえば急に災害が起きてしまったときに、火や電気を使わないレシピも投稿しようと思えばできます。自社で運用しているので、モーメントに合わせた投稿も割とフットワーク軽くできるのはメリットですね。

大成:

InstagramとTikTokは同じ動画を使っているんですか?

井上:

そうですね。静止画を中心に制作していたなかで、アルゴリズムが変わりInstagramではリールの活用も重要になってきた際、TikTokの担当をしている宮崎が他のプラットフォームでも使える動画を作ってくれていたんです。そのなかから、Instagramのターゲット層にあった動画を使用しています。

大成:

同じ動画でもInstagramとTikTokとで反応に差はありますか?

井上:

違いますね。Instagramは「あと一品欲しいな」というときに活躍してくれるレシピの投稿が伸びる傾向にあります。

宮崎:

TikTokではナレーションにこだわっていて、視覚と聴覚の両方でユーザーを楽しませることを意識しています。特に動画の冒頭2秒間がすごくいい出来だとすごくバズります(笑)「シズル感」をうまく伝えることで、動画の拡散に大きく貢献していると考えています。
基本的に人気のレシピはどちらのプラットフォームでも好評なのですが、大きく違う点はTikTokではシズル感の強さが動画の再生数に大きく影響します。また、主食レシピも人気です。

大成:

TikTokは若年層や男性も多く使っているので、手軽に美味しいものを作りたいニーズがより色濃いのでしょうか。
私はXによく登場するぽんズがだいすきなのですが、Xについてもぜひお伺いさせてください。Xはどのような目的で運用されていますか?

ミツカンとテテマーチの座談会の様子

宮崎:

Xはこれまでのファン化のフェーズから、より事業への貢献を求められています。
以前は、ファンを増やすことに注力していましたが、最近はより商品を起点にした投稿を心がけていますね。

大成:

ありがとうございます。SNSが事業に貢献しているかってなかなか数値として見づらいかと思うのですが、具体的にどのように効果検証を行っているのですか?

宮崎:

一つはXのトレンド入りをすることです。トレンド欄に乗ることで、フォロワー以外の方々にもリーチできていると考えて、露出による広告効果を出すようにしています。
もう一つは、味ぽんやカンタン酢など各ブランドのマーケティング施策に寄せた施策を実施すること。各ブランドのマーケティングチームに率先して声をかけて企画の提案を行ったり、シーズンごとに推し出したいレシピがあればそれに付随した投稿を行って営業活動に使ってもらったりしています。
例えるなら、社内に自ら動いてくれるインフルエンサーがいるような状態ですね。

ミツカンとテテマーチの座談会の様子

田中:

Xは三段階のフェーズに分かれていると考えています。今がまさに三段階目の事業へ貢献するフェーズです。
一段階目のフェーズではとにかく情報を発信していき、そこから二段階目のユーザーとの双方向コミュニケーションへと移り変わりました。いいねもつけてコメントも返して、エゴサーチして自分たちから積極的にコミュニケーションをすることで、ファンの広がりが膨らんで、さまざまな企業とのコラボレーションも生まれました。
ようやくアカウントが温まってきたところで各ブランドのマーケティング施策とのシームレス化を始めました。商品を推し出した企画をしてもファンの方たちがしっかりと反応をしてくれるので、いい関係性を築けているなと感じています。

大成:

お話しいただいた二段階目のフェーズをXで実施している企業アカウントは多いと思いますが、三段階目のフェーズへの移行がなかなか難しいですよね。

宮崎:

そこが課題になりました。各商品の告知投稿を行っても、中の人感あふれる日常投稿と比較してエンゲージメントも低くなる傾向にありました。その状況を打破できるアカウントに進化させていくことが、当面の課題です。

ミツカンとテテマーチの座談会の様子

大成:

SNSはアルゴリズムや市場、ユーザーのリテラシーなど変化が大きいと思いますが、日々どのように情報収集をして変化に対して柔軟に対応されているのですか?

井上:

InstagramはMeta社から発信される情報を主に参考にしています。それでも分からない部分はMeta社や代理店の方に直接コンタクトをとっていますね。
社内では毎月トレンド分析報告会という会議を私たちのチームとメニュー開発チームで行っているので、メニュー開発チームからの情報や気づきも大切しています。

大成:

毎月の数値報告もSNSチームでやっている企業はあると思いますが、メニュー開発チームも巻き込んでっていうのがすごい一体感があるなと思って。メニュー開発チームの方々にとっても、SNSからの気づきがあったりするのですか?

井上:

そうですね。ミツカンにとってもSNSが営業媒体の重要なポジションになっているので、メニュー開発チームとしてもSNSで響くレシピはどんなものだろうというのにとても敏感で、日頃の業務に活かしてくれています。

大成:

ありがとうございます。SNSって本当に大きい存在だなと私も日々思いながら接しているのですが、それ以上にもっともっと大きいものになってきているのではないかと感じました。

田中:

ミツカン内でもSNSに対する重要度が全社的に高くなってきており、普段から関わりのある部署以外、例えば営業本部のメンバーなども非常にSNSに興味を持ってくれて、最近問い合わせがものすごく増えています。

大成:

きっと「SNSでこれがバズってるんだ」って店舗の方ともお話しされますよね。

田中:

これまでは、テレビCMが入るかどうかが得意先との商談でのメイントピックであり、SNSが話題になることは少なかったようですが、今では話題にあがることもあると聞いています。

大成:

それはすごく大きな変化ですね。

X発!企業の垣根を超えた異色コラボの舞台裏

ミツカンとテテマーチの座談会の様子

大成:

SNS運用から派生してさまざまなコラボレーション企画も生まれていますがどのような経緯で誕生したのかお伺いできますか?

宮崎:

2パターンあって、1つがわかさ生活さんなど他社さんとSNS上でのコラボ、もう1つはJリーグジュビロ磐田さんやカプセルトイメーカーのQualia(クオリア)さんとのコラボです。
1つ目のSNS上での企業コラボはラフに実施しています。たとえば、Xでリプライしあうなかで仲良くなって、なにかやろうと話し合って実現するケースが多いです。日本ハムさんとX上でコラボしたときはシャウエッセンを使った手巻き寿司を作りました。それぞれの会社の商品に落とし込めるような投稿になるよう意識しています。

一方でユーザーのファン化がアカウント運用のベースにあるので、直接的に商品に落とし込めない企画ももちろんあります。わかさ生活さんとのコラボ企画で、わかさ生活さんとメンチニキさんとのコラボ投稿を実施したのですが、それがめちゃくちゃバズりました。

田中:

今年4月にQualia(クオリア)さんから発売された「ミツカンのぬいぐるみ」というカプセルトイは、元々Qualia(クオリア)さんの「調味料のぬいぐるみ」というカプセルトイのうち、ぽん酢が欲しくなったX担当者の奮闘をきっかけに実現しました。

大成:

ありったけの100円玉を持って行った投稿ですよね。

田中:

カプセルトイ以外には、「アドミラル」とロゴが似ているとX上で話題になったジュビロ磐田さんとTシャツを制作しました。
普段、調味料界隈では接点のない人たちがミツカンに気づいてくれる、反応してくれるような状態を作ることでより広がりが生まれることを期待しているので、あえてまったく違う業界の企業さんとコラボレーションするようにしています。ただし、共通点は必ず商品やロゴマークなど、ミツカンという箱に落ちてくるような状態を作ることです。

大成:

ジュビロ磐田さんとは、そこからスポンサー契約されていましたよね。
【SNS上でのファンの声に応えて、ついに実現!】Jリーグジュビロ磐田とミツカンがスポンサー契約を締結!

田中:

そうなんです。このようなコラボをきっかけに、今まで接することのなかったスポーツファンの方々に改めてミツカンの存在に気づいてもらって、スーパーでミツカンの商品を見たら「ミツカンの商品だから手に取ってみよう」となってもらえるといいなと思っています。

大成:

今お伺いしたような取り組みを実現するまでにハードルが高い企業もあるかと思います。ミツカンさんのどんどんチャレンジしていこうという企業風土が良く伝わってきました!

ミツカンとテテマーチの座談会の様子

SNSプラットフォームの特性を活かした攻めと守りの運用を目指す

大成:

最後に、今後チャレンジしたいことやこれからの課題についてお伺いできますか?

宮崎:

あまり調理をしない層にも使ってもらえるような状況を作りたいというのが、今後の一番大きなチャレンジだと思っています。
たとえばTikTokを使って、コンビニで買える食材にちょっと一手間を加えるだけでこんな料理できるよという訴求を増やすなどです。

大成:

ありがとうございます。電子レンジでチンするだけでも立派な調理だと言えますもんね。

宮崎:

それを企業として全力で肯定していくイメージです。「映えなくも綺麗じゃなくてもいい」というのを企業が肯定してあげることって、きっと他社も含めて今まであまりなかったと思います。
すごく綺麗な盛り付けで手が込んだ料理じゃなくても、袋にバーンって入れてチーンってしていただきます!みたいなものもどんどんやっていきたい。そしてそれにはSNSが一番マッチしていると思うので、うまくギリギリを攻めてやっていきたいと思っています。

大成:

私も仕事から帰宅してご飯を作れたとき、すごく自己肯定感が上がるので今のお話にすごく共感しました。きゅうりを揉んだだけのときでも(笑)
調味料メーカーのミツカンさんからそう言ってもらえると、すごく肯定された気持ちになれると思います。

田中:

何年か前、お惣菜の天ぷらを買ってきてご飯に乗せて、追いがつおつゆをかけて天丼にする投稿をした際に「気持ちがわかってるミツカン!」みたいなコメントも多く寄せられてバズったこともありましたね。

大成:

企業が寄り添ってくれているというのが好きになるポイントだと、とても感じました。
お話を伺うなかで、プラットフォームの違いを深く理解されたうえで、事業にどう貢献するかまで見据えて強みを活かした施策を展開されていると感じました。
ありがとうございました。

ミツカンとテテマーチの座談会の様子

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