リアルとデジタルを横断しながらシームレスな体験を。今を生き抜くブランドの作り方
Date : 2022/01/25
スマートフォンの普及、SNSの台頭、動画配信サービス、LINEなどのコミュニケーションツールの発展を通して、私たちを取り巻くコミュニケーション環境は大きく変化しました。
そんな新時代のコミュニケーションのあり方を考えるべく、この度、弊社では「Social談」として二日間に渡る大規模なオンラインイベントを開催。さまざまな分野で活躍される有識者やクリエイターお呼びして談義する機会を設けました。
さて、今回お届けするセッションは「今を生き抜くブランドの作り方」。世の中の隠れたインサイトを読み解き、顧客と対話しながら作り上げる新時代のブランド作りについてお聞きします。
【登壇者】
日々の生活から生まれた原体験のあるブランドストーリー
三島:世の中に隠れているインサイトを読み解きながら顧客と対話をしながら作り上げる新時代のブランド作りについて、「今を生き抜くブランドの作り方」として三名にお話を聞いていきます。まずは、みなさんがどんなブランドを手がけているかお伺いできたらと思います。
山下:「Minimal – Bean to Bar Chocolate -」というチョコレートのブランドをやっている山下と申します。普通のチョコレートと違うのは、チョコレートの原材料であるカカオ豆を赤道直下のアジア、アフリカ、中南米などに自ら買い付けに行っていること。
商品は板チョコレートやガトーショコラなど、カカオの味わいをダイレクトに表現したチョコレートを使ったスイーツ全般を手がけています。白金高輪と代々木上原、富ヶ谷にある工房でチョコレートをすべて手作りして販売しており、ECサイトでも販売しています。
僕たちなりにSNSを使いながらリアルとデジタルをどのように繋げているかお話できたら嬉しいです。
上原:パーソナライズヘアケア「MEDULLA」、パーソナライズスキンケア「HOTARU PERSONALIZED」など、パーソナライズブランドを運営している会社を営んでいます。普通の化粧品との違いは、スマートフォンで簡単な質問に答えると自分に合った処方をお届けすることができる点です。
小林:私たちは台湾発の漢方のライフスタイルブランド「DAYLILY」を運営しています。DAYLILYは、私ともう一名、台湾人で漢方薬局を営んでいる父を持つ台湾人のEriと二人で始めたブランドです。
扱っているものは漢方ですが、決して薬ではなく、薬膳茶やそのまま食べることができる棗(ナツメ)、漢方を使ったコスメなども販売しています。
三島:ありがとうございます。それぞれのブランドをご紹介いただいたところで、まずはブランド創業のきっかけや原点についてお話を聞かせてください。
小林:一緒に始めた台湾人のEriは大学院の同級生でした。学生時代に、彼女から台湾の漢方の話を聞いたことがきっかけでブランドを作るに至っています。というのも、日本人だと漢方は敷居が高かったり、病気になってから使ったりするイメージが強いですよね。
ところが、台湾人は決してそうではなく、日常のなかで漢方を取り入れていると知りました。お守りのように漢方を使ってヘルシーな日々を過ごす台湾の人を羨ましく思い、日本もそうなったら良いなと思ったんです。そうして、私たちの欲しい、今までの漢方が持つ「苦そう」「マズそう」といったイメージを払拭し、気分の上がるデザインの漢方を作り始めました。
三島:漢方にはネガティブなイメージがあるからこそ、ガラリと変えやすいという一面もあるかもしれませんね。上原さんはいかがでしょうか。
上原:私たちのサービスでは一人ひとりが自分に合ったものを作れる時代を目指しています。もともと美容業界というのは良いものが溢れているものの、なかなか自分に合うものを選べないという悩みがあり、それを解決するためにブランドを立ち上げました。
最初はパーソナライズシャンプーから始まりました。代表の深山の奥さまがシャンプーに悩んでいたことがきっかけです。バスルームに奥さまが次々試していたシャンプーが溢れているのを見て、合うものがないという悩みを通して身近な人を救いたいと感じたそうなんです。
三島:とても共感します。ありがとうございます。では、次に山下さんお願いします。
山下:僕らは男性4人でブランドを始めています。チョコレートというと女性のものというイメージがあると思いますが、男性が食べても良いチョコレートがあったら面白いなっていうのが最初の動機です(笑)。
Minimal -Bean to Bar Chocolate-
また、2050年や2100年を鑑みたときに日本の人口は減っていく。日本人のきめの細かい技術や考え方を継承しながら、クラフトのものを作ってスケールさせることに取り組みたいと思ったんです。クラフトマンシップとスケーラブルって二律背反しているので、それをちゃんとやっているブランドってあまりないなと。
日本人ってきめ細かく深ぼることは得意ですが、一方で、グローバルでのマーケティングが苦手だったりする。クラフトマンシップとスケーラブルを両立しながら、日本人の良さを持って、グローバルできちんと外貨がとれるようなブランドを作れば、日本のためにもなるし、僕らもやっていて面白い。
それに、男たちがチョコレートを面白くやっていくっていうのも面白い。だからそういうものができたらいいねという話をしてブランドを立ち上げました。
三島:男性4人でのスタートだったんですね。
山下:僕らはもう30代後半になってきているので……おじさん4人が創業したブランドです(笑)。
三島:(笑)。今回はチョコレートが一番合うものだと結論付けられたと思いますが、初期はチョコレート以外のアイデアもありましたか?
山下:そうですね。最初は日本というこの国で良いものを作って、海外で外貨を取ろうと考えていたので商品自体に強いこだわりはなくて。日本の伝統工芸品、お茶、ワイン、クラフトジンなんかも検討していました。
いろいろと検討を重ねた結果、食が一番面白いって話になったんです。単純に創業メンバーが食いしん坊だったので(笑)。
フラットに関係性を保つために。過度にお客様扱いしない付き合い方
三島:ありがとうございます。次に、ブランドを立ち上げていく中でのコアメッセージはどのように設定されたのでしょうか?
山下:チョコレートって、必需品ではないものですよね。嗜好性が高いので、世の中としても選択肢がものすごくたくさんある。なので、あえて僕たちのチョコレートを選んでもらうための「チョコレート体験」をお客さんに伝えようと考えていました。
三島:たしかに、チョコレートを選ぶ経験ってなかなかないですよね。
山下:そうですよね。だからこそ意識的にチョコレートを知ってもらう機会を作ったんです。この時代のブランドながら、僕らは最初、ECをほとんどやっていません。なぜなら、リアルとデジタルでは伝わる情報の質と種類が全然違うから。
僕たちのように新しい種類の事業がやりたいと思った場合、リアルで価値を作ることが大切だと思ったんです。リアル店舗での接客はもちろん、コロナ以前は週2回ワークショップを行って、延べ一万人以上の人に参加してもらいました。
そういったリアルな場で地道に伝えることで、僕たちが届けたいチョコレート体験がしっかりと届くのではないかと思ったんです。
三島:「体験」というキーワード、とても面白いですね。後ほど深堀りさせてください。では次に、上原さんいかがでしょう?
上原:山下さんの考えと近いところがあるかもしれません。自分にぴったり合うものが届いたときや良いコスメを見つけたときのテンションの上がり方とか、シンデレラのガラスの靴がハマったときのようなワクワク、開けたときのときめきを大事にしているんです。
シャンプーと一緒に届ける冊子やカードなどの同梱物でも、かわいさを大切にしているんです。写真に撮りたくなるデザインにこだわっています。
うちはECがメインなので、いわゆる通販の会社さんと戦うことになります。その常識では、購入までの同線は短ければ短いほど良いとされています。たとえば、メールアドレスの入力を消す、とかの細かい戦いになっているほど。
それにも関わらず、私たちはあえてそこにパーソナライズのための診断を入れています。カスタマイズの体験を味わっていただき、体験を含めて買っていただくのが他との違いです。
三島:ありがとうございます。小林さん、いかがでしょう。
小林:「これを実現したい」「これを提供したい」という話はあんまりしていないですね。「みんなと一緒にヘルシーでいたいよね」くらいのもので(笑)。お客様は友達のような存在というか。対等でフラットな関係で、お互いヘルシーにいられるような日々を目指しています。
三島:ブランドのペルソナは最初から決めていたんですか?
小林:あまり決めていないですね。自分たちが必要だと思うものを作りたいし、それに共感してくれる人と一緒にヘルシーでいたいと思っているだけなので。
山下:今、小林さんから「友達」という言葉が出ましたが、僕たちもそれに近い感覚です。買い手、売り手、とカチッと線を引くというよりは、境界線をぼやけさせながらみんなが仲間だという雰囲気でやりたい。
僕らは新しいチョコレートの文化を作ると謳っているので、チョコレートを新しくする過程をみんなで一緒に楽しみたいと思っています。フレンドリーさとものづくりに対する真摯さを自分たちの人格として出していかないといけないと昔から仲間と話していますね。
高級ブランドは完璧なサービスを通して非日常を体験できる。その世界観に対価を払っているという構造だと思います。
僕らはその点、自分たちのことをクラフトブランドと定義しているんです。クラフトには手仕事という意味があり、手を動かしつつ、そのプロセスごと楽しむことが重要です。
上原:うちも似た価値観ですね。正解を提示するスタンスではなく、一緒に悩みながら作っていくことを大事にしています。Web上で担当のスタイリストを付けて、カウンセリングしながら一緒に作るという体験を作ったのもそれが理由です。
また、「処方」というと難しく聞こえてくるので、わかりやすい香りという要素を入れて「次はさっぱりした香りにしてみますか?」というフランクに会話ができるような設計にしたり。
三島:パーソナライズしながらも寄り添うスタンスを大切にされているんですね。
リアルとデジタル、それぞれどのように意味付けをする?
三島:Minimalさんでは、コロナ前にワークショップを開催していたという話がありましたね。みなさんは商品を開発したりアップデートしたりしていく上で、お客様のフィードバックやSNS上の声はどれくらい取り入れていますか?
小林:お客様の声は日頃から見ているので、その中で良いものがあれば取り入れるし、なければ取り入れない。そこもフラットですね。
上原:私たちは、比較的お客様の声を取り入れています。ただ、お客様が絶対ではないというのは同じ。お客様扱いしすぎないというスタンスですね。
コールセンターやWeb上にフィードバックデータがあるので、「使いにくい」みたいな細かいUIの部分はいただいたその場で改修して反映しています。コールセンターにもエンジニア組織があるので、いただいた声をすぐに解決できる環境を作っているんです。
三島:「パーソナライズされたのに合わない」といった意見も最初のほうは多かったのかなと思います。そういった点をアップデートしていくのは大変じゃないですか?
上原:大変ですけれど、常にアップデートしています。パーソナライズである以上、合うのが前提なのでお客様の満足度のハードルもかなり高いですね。
フィードバックの際、点数をつけて評価していただく仕組みがあるのですが、そこで不満足と評価されないための製品づくりができるよう、お客様の声を元に厳しくクオリティチェックをしていますね。
山下:僕らもお客様の声は取り入れたり取り入れなかったりですね。上原さんが仰ったように、EC決済のUIやUXが微妙だという意見があればすぐに改修します。
商品に関しては、あえて賛否の出るような尖った商品と万人受けする商品を置いているんです。尖った商品に関しては賛否の「否」が出たほうが面白いなと見ていますね。
三島:すごいですね。お客様とのコミュニケーションって、一度始めたらキリがないと思うんですが、それって仕組みで解決しているのでしょうか。
小林:人力ですね。対応するための特別な部署を設けたりはしていないので、お店で働いているメンバーが直接話を聞いています。商品のことをよりわかっている者同士でお互いフラットに話すようにしたいので。
三島:店舗でその役割を担っているんですね。上原さんはいかがですか?
上原:コールセンターのチームがあるので基本はそこで。また、それとは別に、専門的なことを聞いてくださるお客様もいるので、処方についてのやりとりや相談を受けるカウンセリングチームを設けて対応しています。
山下:僕たちは種類を仕組みで解決することもあります。「どうやって解約するんですか?」のようなカスタマーサポートが従来対応しているであろう点は、Webで検索したら見れるようにQ&Aページにまとめているんです。
ここはかなりPDCAを回しています。昨年まで、Q&Aチームでは「お客様の問い合わせがどれくらい減ったのか」をKPIに据えていたほどです。
反対に、カスタマーサクセスは「お客様に対してどれだけ満足感を提供できるのか」が重要なので、0をプラスにする仕事なんです。ここはメールや電話で対応しているので人力が必要です。
三島:考え方の違いが見られて面白いですね。店舗での対応という話もありましたが、デジタルシフトが進んでいるこの時代、どんな目的で店舗を持たれていますか?
上原:うちの場合はオンラインがメインなので、店舗はそれを補完する存在です。体験しないとわからない商品ではあるので、実際に診断を体験できる場所ですね。頭皮や肌を見て判断してほしい方、香りを嗅ぎたい方もいるので、そのニーズを満たすために店舗を設置しています。
あとは、CRM的な観点で既存のお客様により満足していただくための接点としての役割もあります。たとえば、デイリーケアは商品で、スペシャルケアはMEDULLAのトリートメントサロンに行って、という使い方ですね。
オフラインを取り入れて分かったのは、予想以上に購入前に頭皮や肌を直接見てほしいニーズがあるという点です。あとは、店頭で一緒に診断をするとお客様が迷うポイントがリアルにわかったりするので、処方の精度を上げるためにも意味のあることだと思っています。
SALON DE MEDULLA | MEDULLA(メデュラ)
山下:既存のお客様って、どういうことを目的に来店するケースが多いのでしょう?
上原:新商品の香りを体験したり、自分の処方が合っているのか、使い続けてどう変わったのかをチェックしたいというイメージで定期的にいらっしゃるケースが多いですね。
山下:面白いですね。うちはコロナの影響で銀座の店舗を閉じたりしているんですよね。店舗を閉じるって初めての経験だったので、申し訳ない気持ちが強くて。実力不足も実感しました。
僕らはあくまで板チョコにこだわっているので、板チョコが売れないなら辞めるって気持ちで経営していました。一枚100円もあれば購入できる板チョコが、うちだと1,000円以上する。だから体験しないと売れないし、体験してもらえればファンが増えます。
デジタルに舵を切ったのは、そういう体験をデジタル上でも補完できるようにならないのかなと思ったからなんです。たとえば、ガトーショコラであれば、すでにお客様の中に過去に食べてきたガトーショコラの記憶があるからECで販売を開始してもシズル感を感じてもらえるんじゃないかと。そういうイメージで、シズルの体験をデジタルにも拡張できたらと思ったんですよね。
三島:既存のお客様はデジタルの方が多いんですか?
山下:いえいえ、なんだかんだ店舗に来てくださる人も多いですよ。週3、4回、あるいは毎日来てくれる人とか。スタッフに会いに来る人もいますし、「新商品を〇〇さんから買いたい」って人もいますね。創業期から支えてくれているのは、そういう代々木上原や富ヶ谷の半径10キロ以内に住んでいるコアなお客様です。
小林:私たちは、最初台北のお店からスタートして、その後日本でもお店を作っています。台湾で漢方が浸透しているのは街中どこでも買えるからなんです。漢方薬局もたくさんありますし、オンラインでもすごく簡単に買える。
そういった環境によって漢方が根付いているのを目にしたので、日本でも同じようなことができるといいなと思ったんですよね。身近なところにお店を作ったり、オンラインでも買えるようにしたりする展開をしています。
もともとは店舗が多かったのですが、コロナの影響で逆転しました。漢方は購入のハードルが高い。なので、店舗に来て試飲していただいてイメージを掴んでもらっていますね。
三島:コロナの影響で、リアルの重要性が増してきたのかもしれませんね。D2Cブランドは、オンラインから始めてその後出店するのがセオリーだという漠然としたグロース設計を目にすることもあります。そのあたりの目的や棲み分けは設計してから出店されていますか?
小林:あまり境界線は設けていないですね。境界線を求めていないし、境界線を感じないような体験を作っていきたいとも思っています。
上原:理想は必要なチャネルに必要なものがあることだと思っています。オンラインで難しい部分を店舗で補完できればそれで良いのではないのかなと思います。
山下:僕らは役割を明確に分けています。ECは、商品の情報を伝えることはできるけれど体験は伝えられないので。あくまでECは商品を誰でもすぐに買える、いわば利便性を重要視して設計しています。
店舗の価値は商品の体験、プラスαのサービス体験にあると思うんです。たとえば、富ヶ谷の店舗は板チョコの専門店ですが、全種類試食できるんです。どれをお出しするかは、スタッフが自分で裁量権を持っています。
アルバイトスタッフを含めて、月に一度、2時間の勉強会を開催してテイスティングの価値観を醸成しているんです。社員は週に一度、チョコレートをテイスティングしてレビューするという実習も行っています。
新作「Minimal Works:Engineering」テイスティング@富ヶ谷本店
そうすることで、自分たちの言葉で商品を伝えられるようになるし、オリジナリティのある接客ができますよね。
その結果、お客様の中には「初めて購入したのはECだけど、口コミを見て気になったから」と上原店に来てくれる人もいました。上原店にはトップバリスタが働いていて、スペシャリティコーヒーとチョコレートをペアリングで楽しめるんですよね。
リアルとデジタルの役割を分けながらも、どうしたらお客様がシームレスにブランドを体験してくださるのか。その道筋をやっと理解して描けるようになってきた感覚があります。
ブランドメッセージには、常に「心の底」からの思いを込めて
三島:ここで視聴者の方から質問をいただいたので話題を切り替えたいと思います。質問は「コアメッセージを設計されたときの流れを聞きたい」とのこと。山下さん、いかがでしょうか?
山下:僕らはクラフトマンシップがテーマなので「ものづくりを届けたい」「素材が良いものって良いよね」みたいな会話から始まっていますね。
チョコレートには、ファイン加工と呼ばれる世界中で20%ほどしか採用されていない質の高い加工がある。その良さをしっかり伝えていきたいねと考えました。SDGsやソーシャルグッドの文脈にも繋がるので、自然の流れだろうなとも感じていました。
上原:私たちがパーソナライズで一番伝えたいのは「個性を価値にすること」です。ブランドのコンセプトでいうと「スマホの中の美容室」。美容師さんが一人ひとりの個性を引き出してぴったりの自分に仕上げてくれる体験が毎日できたら良いなって。美容室帰りのテンションが上がるような体験を、スマホで届けたいと思いました。
小林:私たちはそもそもコアメッセージやミッションを決めていないんですよね。無理に定めてしまうことで、ブランドと人間との間に上下関係が生まれるような気がしたんです。とはいえ、何を大切にするのかと考えたときに生まれたのが「ヘルシー」というキーワード。
わたしも共同創業者もブランド立ち上げ時に「ヘルシーに生きたいね」って口癖のように言っていたんですよね。それがそのままブランドを体現する言葉にもなってくれています。
三島:僕たちも「本当にこの言葉で嘘はないですか?」と支援させていただく企業に対してよく聞いています。本当に思っていることをやらないと、結局お客様はわかってくれないから。お客様のほうがよっぽど鋭いですからね。
それでは最後のまとめに入ります。みなさんは愛されるブランドをどのように育てていきたいと考えていらっしゃるのでしょうか。
山下:よく大量生産品は広く届くけれど愛され具合は浅い、人の手で作っているものは狭いけれど深く愛されるなんて言ったりします。これからの時代は深くてそこそこ広く知られるブランドが増えていくと思うんですよね。
深く掘ったところに集まってくれる人たちの輪をどう広げていくのか、それを考えられる21世紀のブランド論は面白いなと。自己満足で終わるのではなく、深くて広いブランド作りを目指していこうと思っています。
上原:目指しているのは個性が価値化された人々が心地よく暮らせる状態です。化粧品やシャンプーなどに悩む人が、自分らしいものを見つけられる体験を届けたい。そのために、細かな改善を重ねていく。そういう地道な行いの繰り返しを大切にしていきたいです。
小林:ここ数年でD2Cという言葉が流行って、どう売るのかばかりに着目する人が増えているのがすごく悲しいなと感じています。ブランドにとって大切なのはどう売るかではなく、どんな意思でやっているか。均質化されるブランドではなく、芯のあるブランドが残る時代であってほしいし、私たちもまたそういうブランドであり続けたいと思っています。
三島:皆様、ありがとうございました。生活様式の変化と共に、生活者の価値観も変わっていくと思いますが、それらに対応しながら生活に寄り添うブランドがこれからは生き残るのかもしれませんね。ブランドのあるべき姿や価値観などを改めて僕自身の見つめる機会になりました。お三方、ありがとうございました。