Instagramのアルゴリズムを改めて読み解く。ユーザー目線の運用のカギは「コミュニケーション」
Date : 2021/09/16
2021年6月、Facebook社からInstagramのアルゴリズムにまつわるブログが公開されました。これまでは詳しく明かしてこなかったInstagramの仕組みを解き明かすことで、ユーザーがより安心してサービスを活用することを目指して公開されたものです。
アルゴリズムの基本的な考え方から、機能ごとのランク付けなどを包括的に語られた今回のブログ、今後のアカウント運用指針を考えるきっかけになった方も多いのではないでしょうか。本記事では、公開されたアルゴリズムを基に、実際の運用やコンテンツ設計などにおいて注力するべきポイントを考えます。話し手は、Facebook Japan株式会社・中村淳一さん、テテマーチ株式会社・三島悠太です。
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遂に公に。Instagramが着目している“シグナル”とは?
三島悠太(以下、三島):前回に引き続きよろしくお願いします! 公式見解としてInstagramのアルゴリズムが発表されたのがとても驚きの出来事で、ブログの公開後はすごく驚いたことを覚えています。今回はその「アルゴリズム」をテーマにお話できたらと思います。
中村淳一(以下、中村):よろしくお願いします!
三島:僕たちは普段企業さんのInstagram運用に関わる仕事をしているんですが、今までアルゴリズムが明確に公開されていなかった。弊社では分析ツールとして「SINIS」を提供しているのでそこで集めたデータを元にアルゴリズムについてはある程度予測していましたが、答えを持っているわけではないので「おそらく……」と枕詞を添えてお答えしないといけない場面がすごく多くて(笑)。そういった意味でも、個人の興味としても、今回のアルゴリズムの公開はすごく学びになっています。
中村:そう言っていただけて何よりです(笑)。アルゴリズムに関しては、運用担当者だけではなく全ての利用者にとって関心の高いトピックなのではないかと思っています。どういう仕組みで運営されているものなのかを知ることは、Instagramというプラットフォームを安心して使っていただくことにも直結しますから。
三島:仰る通りだと思います。そもそも、Instagramにアルゴリズムという概念が生まれたのっていつ頃のことだったんでしょう。写真投稿に特化したサービスとして始まった背景なので、初期はアルゴリズムによるパーソナライズはされていなかったと記憶しています。
中村:そうですね。ローンチ当初の2010年はアルゴリズムで表示するコンテンツを変えるという考え方は存在せず、利用者が投稿した写真を時系列に表示する作りでした。ところが、利用者数が増加し、一人ひとりがフォローするアカウントの数も増えるに伴い、投稿された写真全てを閲覧することがだんだん困難になったんですね。
2016年のデータでは、親しい友人が投稿したコンテンツも含め、フィードに表示される投稿の70%が利用者に見過ごされてしまうほどでした。そこでパーソナライズを行い、利用者ごとに関心が高いと思われる投稿から上位に表示されるように変更したんです。それがアルゴリズムを活用して表示されるコンテンツをパーソナライズするという仕組みの始まりです。
アルゴリズムというと、一つの軸によって形成されたシンプルなものと考えられることがありますが、実際はあらゆる観点から「シグナル」と呼ばれる情報を集め、立体的に利用者の行動や興味関心を分析してパーソナライズしています。
三島:ブログ内での発表でも、投稿や投稿者に関する情報、そしてこれまでのアクティビティから算出した興味関心などがシグナルの一例として挙げられていましたよね。
中村:Instagramには、フィード、スト―リーズ、リール、発見タブなどさまざまな機能があるので、それらの機能の役割に合わせて、各シグナルを対応させてパーソナライズしているんです。たとえば、フィードやスト―リーズは利用者の友人や家族など、すでにフォローしているアカウントの投稿を見るための機能。なので、利用者自身とコンテンツを投稿したアカウントのこれまでのやりとりなどを基にリレーションシップを測り、興味・関心度が高い投稿がトップにくるようパーソナライズされます。
一方、リールや発見タブは、利用者がフォローしていないアカウントやコンテンツに出会うための機能です。利用者がいいね・保存など何かしらの行動を起こしていたアカウントが投稿したコンテンツや、近しい興味関心を持った利用者がフォローしているアカウントなどを分析し、さらにコンテンツ単体の人気度などを加味して、利用者がまだフォローしていないけれど、興味を持ちそうな投稿をタブに表示させる仕組みです。
3万件以上のアカウントを分析して見えたエンゲージメントとリーチの相関性
三島:最近、企業さんもInstagramへの理解を深めてくださっているケースがすごく多くて「いいね、コメント、保存などのエンゲージメントのうち、リーチに一番直結するのはどの数値なんでしょう?」といったご質問をいただく機会が増えているんです。それらの問いに対して、これまでの実感値だけではなくFacebookさんの見解を交えてお伝えできるのがすごくありがたくて。施策を立てる際にも随分と組み立てやすくなったように感じています。
中村:テテマーチさんの場合は、分析ツールとして「SINIS」を提供されているので、その分析結果から算出したリーチやエンゲージメントの相関関係などもあったのではないかと思います。実際のところはいかがでしたか?
三島:僕らの分析の結果では「保存数の増加とリーチ数には相関関係がある」のだろうという結論を導き出しています。個別の投稿で計測できる数値にはいいね数、コメント数、保存数などがありますが、そのうち保存数が伸びた投稿はリーチも伸びやすい傾向にあったんです。
おそらくですが、保存数の高い投稿は、ユーザーにとって参考になっていたり、特に好きな投稿と認識されているなどの理由で滞在時間も長くなる。結果として“良い投稿”として認知されて、発見タブにも表示されやすくなる傾向があるのではないかなと考えています。
中村:興味深い分析結果ですね。もちろん保存数のみをシグナルとして見ているわけではありませんが、指標の一つとして重要視していただくのはとても大切だと思います。いずれのシグナルにしても、利用者のアクティビティをもとに興味を持ちそうかどうかを予測するというのがInstagramにおけるアルゴリズムの基本方針ですから。ただ投稿するだけではなくフォロワーとの関係構築を意識するのはアカウントを育てる上で必要な観点ですね。
三島:投稿単体のエンゲージメントも大切ではありますが、アカウントを循環してもらう流れを作ることもそれ以上に大切なのかなと思っています。フィード、ストーリーズ、リール、IGTVなどのコンテンツの役割をしっかりと考え、どのように楽しんでもらうのかを設計してあげるような。
今回のアルゴリズムの見解が発表される前から、僕たちはフォロワー数をKPIにするのではなく、ユーザーのアクション数をKPIに据えるべきだと考えてきました。アカウント内でどのような楽しさを感じてもらうのかを考えることによって、ストーリーズでアンケートを行なっていこうとか、リールで新しい見せ方のコンテンツを楽しんでもらおうとか、フィードで読み物らしいマガジンコンテンツを投稿していこうとか、具体的な施策が見えてきます。その取り組みを続けることで、結果としてフォロワー数も獲得できる構造のように思います。
これからのアカウント運用。鍵は「クリエイター共創」にアリ
中村:フィードやストーリーズなどはInstagramの基本的な使い方でもあるので、企業・個人を問わず誰しもが比較的活用できている機能なのかなと思います。一方、リールのようにまだ新しい機能は上手に活用できている人がまだそう多くないのかなと。
先にもお話したように、リール専用タブには利用者がまだフォローしていないアカウントの動画も表示されます。その意味では、自分をフォローしていない人たちにコンテンツやアカウントそのものの認知を広げる良いチャンスだと思うので効果的に活用してほしいと考えていますが、テテマーチさんから見て上手に活用できている事例ってどういったものがあるのでしょうか。
三島:企業アカウントはまだまだ活用できている例が少ないのかなとは思います。一方で、個人アカウントは「まずはチャレンジしてみよう」といった感じで気軽に投稿してくれていますね。リール用にコンテンツを準備するよりも、TikTokで投稿した動画をリールにも流している方が多い印象です。
中村:これはあくまでも仮説ですが、企業の名前で投稿するとなると、新しい機能やコンテンツの方向性を試すことのハードルが高くなってしまうのかなと思うんですよね。規模が大きい企業であればあるほど、日々の投稿プランを考えて、チームや上長の承認を得て、制作して投稿……とフローがとても多いですしね。そのあたりを解決するためにも、運用のプロフェッショナルとタッグを組みながら全体像から設計していくのが良いのかなと。
三島:以前、僕たちがリールのプランニングをご一緒している企業さんと話したことがあるんですが、もともと僕たちが関わる前はリールを作り込む余裕がなく、フィードやストーリーズで出していたものをリールでも展開することしかできなかったそうなんです。
でも、その戦略ってアカウント全体のレベルで考えると各機能面の特徴を踏まえた投稿戦略まで落とし込めていないですし、投稿をしっかり見てくれているユーザーにとっては目新しい情報でもないので全く伸びない。そうして、テテマーチに運用をご相談いただく……みたいな流れがあったので、企業さんこそアルゴリズムやユーザー体験にフォーカスを当てながらアカウントを育てることに注力してほしいなとは思いますね。
中村:企業の場合は、Instagramを上手に活用しているクリエイターとのコラボレーションや共創を図りながらブランドの価値を拡充していく方法もありますよね。クリエイターへの支援はInstagramとして現在最も注力している分野のひとつですし、実際にInstagram上で活躍している魅力的なクリエイターってたくさんいると思うので。
三島:企業アカウントの魅力って、企業の中にはいない「第三者」だから気がつく部分や提案できることもあると思うんですよね。そういった、まだ自分たちの魅力に気づいていない、あるいは、上手に見せることのできていない企業やブランドの新しい一面をクリエイターとのコラボレーションによって対外的に見せていくのってすごく大切なことだなと。……次の記事では、そういったクリエイターとのコラボレーションについてもお話させてください!