消費を動かす「推し活」の現在地とは?大学生調査から読み解く、時間とお金の使い方【推し活調査 前編】
楽しみ方が多様化する「推し活」。それは単なる趣味の域を超え、個人の価値観や消費行動にも大きな影響を与える文化として定着し、企業のマーケティング活動においても注目されています。
サキダチラボは、最新の推し活事情を把握するため、推し活が広く浸透しているZ世代の中心である現役大学生・大学院生350名を対象に、「推し活」に関するアンケート調査を実施しました。本記事(前編)では、大学生が推し活にどのくらいの時間やお金を費やし、どのように情報を収集・発信しているのか、その具体的な実態を明らかにします。
続く後編では、特に人気の高い「アイドル」に焦点を絞り、「J-POPアイドル推し」と「K-POPアイドル推し」を比較し、その違いを詳しく分析します。
目次
調査概要
- 調査名:「推し活」に関するアンケート調査
- 調査方法:「サークルアップ」内のアンケートオファーによる調査
- 調査対象:全国の現役大学生・大学院生(大学1年生〜大学院2年生)のうち、「推し」がいると回答した方
- 有効回答数:350名
- 性別:男性 109名、女性 241名
- 学年:大学1年生 120名、大学2年生 123名、大学3年生 77名、大学4年生 27名、大学院生 3名
- 調査期間:2025年3月12日~13日
調査結果サマリー
推しがいる大学生を対象とした本調査の結果、以下の実態が明らかになりました。
- “推し”のジャンル:「アイドル」推しが最多で、全体の55.7%。複数ジャンルを掛け持ちする人も多数。
- “推し活”への消費:全体の半数は、推し活に「週5時間未満」かつ「月3,000円未満」しか消費しないライト層。男女別では、女性の方が時間もお金も費やす傾向。
- “推し活”におけるお金の使い道:惜しみなくお金を使う活動として、ライブや舞台といった「イベントへの参加」が40.9%でトップ。
- “推し”に関する情報収集:全体の86.0%が、SNSから推しの情報を入手。なかでも、推し活に時間やお金を費やす人ほど、X(Twitter)を活用する傾向。
- “推し”に関する情報発信:全体の37.1%が、推しについて「まったく発信しない」と回答。推し活に時間やお金を費やす人ほど、発信頻度が高くなる傾向。
大学生は誰を、どのように推している? ~推し活の全体像~
推しジャンル:「アイドル」推しが最多、複数ジャンルの掛け持ちも多数
「推しがいる」と回答した大学生に、推しのジャンルを尋ねたところ、「アイドル」(55.7%)が最も多く、次いで「マンガ・アニメ」(30.0%)、「アーティスト・ミュージシャン」(24.9%)となりました。
また、最も熱心に応援している推しのジャンルを1つに絞ってもらった場合でも、順位は変わりませんでした(アイドル:47.1%、マンガ・アニメ:15.4%、アーティスト:12.9%)。このほか、推しをすべて挙げてもらった場合(複数回答)と、最も応援している推しを1つだけ選んでもらった場合(単一回答)とで、各ジャンルの回答割合を比べると、前者の方が後者を大きく上回っていることが確認されました。このことから、多くの大学生が複数ジャンルをまたいで「推し活」を楽しんでいることがわかります。

最も応援している推しのジャンルを男女別で見ると、女性では「アイドル」が53.9%と、男性の32.1%を大きく上回りました。一方、男性では「マンガ・アニメ」が29.4%と、女性の9.1%に比べて3倍以上となり、顕著な差が見られました。

「推し」ランキング:“人気”と“SNS上の言及数”は必ずしも相関しない
では、大学生の間で人気があるのは具体的に誰なのでしょうか。最も応援している推しの名前を挙げてもらった結果、トップ10(10位が同票のため11組)は以下の通りでした。

同率1位は「Mrs. GREEN APPLE」と「乃木坂46」(各14票)でした。次いで、K-POPアイドルの「BTS」「IVE」「SEVENTEEN」「TWICE」(各8票)が同率2位にランクインしました。
さらに今回の調査では、これらの推しについて、X(Twitter)上でどれだけ話題になっているのか、Xでの言及数*とUGC数*を算出してみました。すると、この推しランキングとは異なる傾向が見られました。
具体的には、ランキングで同率2位だったK-POPアイドル(BTSなど4組)よりも、ランキングでは下位のJ-POPアイドル(なにわ男子、JO1、Snow Manなど)の方が言及数・UGC数ともに多いという結果になりました。
つまり、誰を(何を)推すかによって、SNSでの発信の仕方やファン同士の交流のあり方など、応援のスタイルも変わると言えそうです。推しによる応援スタイルの違いについては、後編でさらに掘り下げていきます。
* 言及数:返信やリポストを含む投稿数
* UGC数:返信やリポストを含まないオリジナルの投稿数
推し活への消費: 女性の方が時間もお金も費やす傾向
まず、推し活に費やす時間について尋ねたところ、週平均で「5時間未満」という回答が最も多く、全体の63.1%を占めました。次に多かった「5〜10時間未満」の20.3%と合わせると、全体の8割以上は推し活に週10時間も費やしていない、という結果になりました。
このことから、推し活は必ずしも時間をかけなくても、日常生活の中で気軽に楽しめる活動になっていると考えられます。その理由の一つとして、SNSの普及やオンラインコンテンツの充実によって、時間や場所に縛られずに自分のペースで「推す」ことが可能になった点が挙げられるでしょう。なお、男女別で見ると、女性の方が推し活に費やす時間が長い傾向が見られました。

続いて、推し活に費やす金額について尋ねたところ、月平均で「1,000円未満」という回答が最も多く、全体の44.0%を占めました。これは、先に触れた推し活に費やす時間と同様、あまりお金をかけずに、無理のない範囲で楽しんでいる様子が伺えます。男女別で見ると、こちらも時間と同じく、女性の方が推し活に費やす金額が多い傾向にありました。特に、月に1万円以上を消費する人の割合は、女性が15.8%であるのに対し、男性は5.6%と、約3倍の差が見られました。

また、推し活におけるお金の使い道について尋ねたところ、惜しみなくお金を使っている活動として最も票を集めたのは、「イベントに参加する」(40.9%)でした。次いで「公式グッズを買う」(17.4%)、「CD・DVDを買う」(16.3%)の順となりました。このように上位の項目は、推しに直接つながる消費が多いことが分かります。
一方で、「公式グッズ」や「コラボ商品」は、取捨選択してお金を使っていると回答した割合が約半数を占め、モノに対する消費には吟味する傾向が伺えます。また、CD・DVDや書籍にはあまりお金をかけない大学生も多く、サブスクリプションサービスの利用など、費用を抑えた楽しみ方も広がっているようです。
これらの結果から、推しとの直接的なつながりを感じられる体験には積極的にお金を使いつつも、個々の価値観や予算に合わせて賢く選択しながら推し活を楽しんでいると言えるでしょう。

推し活レベル比較 ヘビー層 vs. ライト層
推し活への関与度合いは、推しへの熱量や価値観、自由に使える時間やお金、さらには推し自身の活動内容や頻度など、さまざまな要因によって人それぞれです。そのため、推し活に費やす時間とお金をもとに「推し活レベル」という指標を設け、回答者を「ヘビー層」「ミドル層」「ライト層」の3つに分類し、それぞれの行動特性を分析しました。
「推し活レベル」の各層の定義は以下の通りです。
- ヘビー層(6.3%):推し活に週10時間以上 かつ 月10,000円以上消費している人
- ミドル層(43.7%):ヘビー層およびライト層どちらの条件にも当てはまらない人
- ライト層(50.0%):推し活に週5時間未満 かつ 月3,000円未満しか消費していない人

本記事では、主にヘビー層とライト層を比較することで、その特徴を詳しく見ていきます。
比較①:自由に使えるお金の使い道
Q. 自由に使えるお金の使い道として、最もお金をかけているものを3つまで教えてください。(上位3つまで選択可)

- ヘビー層の特徴:「推し活費」が86.4%と突出して高く、これに続く「飲食費」(72.7%)、「ファッション・美容費」(40.9%)と比較しても、その圧倒的な高さが見て取れます。まさに生活の中心に推しがいると言えそうです。また、ライト層に比べて「交際費」(22.7%)の優先度が低いことも特徴的です。
- ライト層の特徴:「飲食費」(63.4%)が最多で「交際費」(48.0%)、「ファッション・美容費」(45.1%)と続き、「推し活費」はわずか5.7%でした。ヘビー層とは異なり、まず日常生活の満足度を優先しつつ、無理のない範囲で推し活を楽しむ傾向があると考えられます。
この比較から、推し活レベルの違いは、単に「推し活費」の金額差として表れるだけでなく、何にお金を使い、何を後回しにするかという、お金の使い方の優先順位そのものを左右していることが分かりました。
比較②:推し活にお金を使うために意識していること
Q. 推し活にお金を使うために意識していることはありますか。(複数選択可)

- ヘビー層の特徴:「節約をする」と回答した人が95.5%にのぼり、大多数が日々の出費を切り詰めているという実態が伺えます。さらに、推し活の費用を捻出するため、「バイトの掛け持ちやシフトを増やす」(63.6%)、「不用品を売る」(22.7%)といった工夫をする人の割合もライト層より高く、「特に意識していない」人はわずか4.5%でした。
- ライト層の特徴:約3人に1人が「特に意識していない」と回答し、推し活のためにお金をやりくりする意識は低いようです。最も多かった回答は「バイトの掛け持ちやシフトを増やす」(33.1%)ですが、その割合はヘビー層の半分程度に過ぎません。現状の収入や使えるお金の範囲内で、無理なく推し活を楽しんでいる様子が分かります。
この比較から、推し活レベルの違いによって、お金の「使い方」だけでなく、お金の「作り方」にまで影響が及んでいることが明らかになりました。
比較③:推しに関する情報収集手段
Q. 推しに関する情報は、どこから得ることが多いですか。(複数選択可)

- 両者共通の特徴:主要な情報チャネルは「SNS」。
- ヘビー層の特徴:「公式ウェブサイト(ファンクラブ・ブログ含む)」が77.3%と、ライト層の40.6%を大幅に上回っており、公式情報もしっかりとチェックする傾向が見て取れます。さらに、「ファンコミュニティサイト・掲示板」(18.2%)や「ネットで知り合った友人・知人から」(18.2%)といったファン同士のネットワークを通じた情報収集もライト層に比べて活発です。
- ライト層*の特徴:推しに関する情報収集の中心はSNSですが、「テレビ・ラジオ」、「リアルな友人・知人から」、「ニュースサイト・まとめサイト」など、日常的によく触れるメディアや身近な人から情報を得る人の割合が相対的に高いことが特徴です。
*ライト層:ここでの「ライト層」のみ、ミドル層の回答者も含んだ広義のライト層を指します
この比較から、推し活レベルによる情報収集の手段や媒体の違いは、情報に対する「積極性」や求める情報の「質」によるものだと見て取れます。
比較④:推しに関する情報収集で利用しているSNS
Q. 推しの情報収集において、利用しているSNSを教えてください。(複数選択可)

- ヘビー層の特徴:推しの情報収集において、X(Twitter)を利用する人が95.5%と非常に高く、ライト層の55.4%を大きく上回りました。これは、Xが持つ「情報のリアルタイム性」や「興味関心を軸としたコミュニティ形成」といった特徴が、ヘビー層が求める情報の性質にマッチしているからだと考えられます。加えて、Instagram(77.3%)、YouTube(54.5%)、TikTok(45.5%)の利用率も高く、複数のSNSを駆使して情報収集している人が多いと見受けられます。
- ライト層の特徴:推しの情報収集において、半数以上がInstagram(68.0%)とX(55.4%)を利用しているものの、ヘビー層と比べると利用率は低く、特定のSNSに利用が偏る傾向も見られませんでした。
この比較から、推し活レベルが高いほど、推しに関する情報収集の主な手段として、X(Twitter)を活用する傾向が強いということが明らかになりました。
比較⑤:推しに関する情報発信の頻度
Q. 推しに関する情報をどのくらいの頻度で発信しますか。

- ヘビー層の特徴:情報発信に積極的な人が多く、「ほぼ毎日」(22.7%)と「週に数回」(22.7%)を合わせると、約半数が週1回以上の頻度で発信しています。また、「まったく発信しない」と回答した人はわずか4.5%でした。
- ライト層の特徴:情報発信には消極的で、「まったく発信しない」と回答した人が49.1%と半数近くを占めました。発信する場合でも頻度は低く、週1回以上発信する人は約2割に過ぎません。ライト層は、自ら積極的に情報を発信するよりも、むしろ「受け手」として、提供される情報やコンテンツを純粋に楽しんでいると考えられます。
この比較から、推し活レベルの高さと、推しに関する情報発信の活発さとの間には、正の相関があることが分かりました。
推し活市場の現在地と企業に求められること
本調査の結果、推し活をする大学生の多くは、時間もお金も過度に使わず、無理のない範囲で楽しんでいることが明らかになりました。
つまり、企業が「推し活マーケティング」に期待する高い購買意欲やSNSでの情報拡散力は、実際には一部の「ヘビー層」に限られた特徴だと言えそうです。
こうしたライトな推し活が広がりを見せている背景には、SNSの普及が大きく影響していると考えられます。かつての「オタ活」は、より熱狂的でマニアックな側面が強く、コミュニティも閉鎖的でした。しかし、SNSの普及によって活動内容が多様化し、誰もが気軽に好きな対象を応援できるようになりました。その結果、「推し」でつながる、ゆるく開かれたコミュニティが形成され、現在の「推し活」が確立したと言えるでしょう。本調査においても、推しに関する情報収集ではSNSが主要な情報チャネルとなっていました。
また、推しに関する情報発信についても、ほとんど発信しない人が全体の54.2%を占めるなど、いわゆる「見る専」が多いことが見て取れます。ライト層は自ら積極的に情報を発信するというより、むしろ「受け手」として提供される情報やコンテンツを純粋に楽しんでいると考えられます。そのため、企業側は拡散力に過度な期待をせず、ユーザーが自発的に発信したくなるようなコミュニケーション設計をすることが重要です。
一方で、ヘビー層の熱量と情報拡散力は計り知れません。調査結果によれば、ヘビー層は自由に使えるお金の使い道として、推し活費に最もお金を使い、推し活のために節約やバイトのシフトを増やすなどの努力も惜しみません。さらに、ヘビー層の約半数は週に1回以上の頻度で情報発信しており、その熱量の高さが伺えます。彼らの強いエネルギーは、他のファンへと波及し、コミュニティ全体の熱量を高める力を持っていると言えるでしょう。
このように、推し活への関与度合いは人によってさまざまであり、楽しみ方も多様です。企業には、推し活市場の現在地を正しく理解し、ライト層からヘビー層まで、あらゆるファン層の視点に立った企画が期待されます。
後編では、本調査で最も人気の高かった「アイドル」ジャンルに焦点を当て、「J-POPアイドル推し」と「K-POPアイドル推し」の比較分析を通じて、より具体的なインサイトを探っていきます。